海外Q&Aサイトの「なぜ日本と中国はアルファベット式の書記体系(writing system)を発明しなかったの?」という質問から、回答をご紹介。


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■回答者1(フィンランド)
西洋人はよく、アルファベットの書記体系が、言語も文化も問わず常に他の書記体系より断然優れていると決めてかかる。学習の容易さという点では、実際アルファベットのほうが良いことが多い。でも書記体系の持つ他の良い点を評価してみると、学習の容易さは単に一つの検討事項にすぎない。

中国語のような表語文字の書記体系の持つ利点をいくつか挙げると:

  1. 普遍性。人に”cow”という単語を見せた場合、相手は英語が分かっていれば(そして牛とは何かを知っていれば)、この単語の意味が分かる。ところが「牛」という文字を、この文字の意味を学んだ人に見せた場合、相手はどの言語を話しているかにかかわらずその意味が分かる。これは歴史的に中国ではすごく重要で、中国では今でも方言同士の違いがすごく大きい ― 実際、言語学者は「中国語」の方言というより「シナ語派諸言語」という言い方を好む。普通話と広東語はスペイン語とイタリア語よりも隔たっている。でも中国では誰もが、違う言語を話していても、文字でお互いに意思疎通ができる。そして国民の統合は中国の指導者にとって2,000年以上にわたって決定的な最優先の問題だった。

  2. 簡潔さ。中国語の文字は1文字1文字が明確な意味を持っているため、どの音声的な書記体系よりもずっと経済的に書くことができる(※原文:Thanks to the clear meaning of each individual character, writing with Chinese characters is much more economical than with any phonetic writing system)。由于每个单字的意思十分清楚,用汉字写字比任何表音文字系统简省得多(※前の文章の中国語訳)。これが良い例で、英語と現代中国語で同じ内容を意味するこの二つの文章で使われているスペースの違いに注目してほしい。古典中国語を使った場合、この違いはいっそう大きなものになる。

  3. 美意識。表語文字の体系にはその本質上、創造的で芸術的な表現の余地が大きい。書道が中国では常に立派な芸術の一形式であり、古代中国の教育の基礎を築いた孔子の「六芸」(※→Wikipedia)の一つにつとに数えられてきたことは驚くにあたらない。さまざまなスタイルがあり、中でも抽象的なスタイルのものが極めて高く評価される。

中国でアルファベットの書記体系が受け入れられることがなかった最大の理由はたぶん1番だろうけど、ただ中国の学者たちは間違いなくずっと昔、すでにその可能性をよく知っていた ― 中国が外国とその国民との間で何千年にもわたって取引をしてきたことを忘れてはいけない。仏教は紀元後の数世紀に中国に入り、その文書は、パーリ語にせよその他の東南アジアの言語にせよ、アルファベットで書かれていた。

もう一つの大きな理由は、中国語の文字が単なる書記体系ではなく、中国文化の宝庫であり、まさに核となるものだということだ。1つ1つの文字に歴史がある。ラテン語とギリシャ語からの借用語のない英語が想像できないのと同じで、中国語から ― あるいは今日の日本語から ―、 文字を取り除くことはできない。それはすでに言語の本質の一部となっている。

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■回答者2
この質問にはかなり大きな問題点がある・・・日本は実際に、自前の音声的な書記体系を発明した! 事実、2種類発明したんだ! おそらく2万字以上の漢字をわざわざ覚える気のなかった平安時代の女性たちがひらがなを、そして日本の田舎に教えを広めるという課題を持った仏教の僧侶たちがカタカナを発明した!

一方、中国。英語で中国語のことをマンダリンと言うのは、ラテン語/ポルトガル語の「命令」ないし"Mandar"から来ていて、「命令する人々の言語」という意味だ。これがまさに中国語の文字が遠い昔から変わっていない理由で、多民族・多文化の帝国の中で複数の言語で理解されるように設計された、帝国の書記体系だからだ。中国語の文字の唯一の利点がこれで、中国語が音声的なアルファベットではない文字を使う世界で唯一の言語である理由だ。

面白いことに、中国共産党は1950年代に文字をローマンアルファベットに切り替えることを検討したが、その理由は私が上で述べたものとは異なる。同じ文字に対して中国内であまりに多くの発音があるということなんだ。ベトナムでは発音の同質性が比較的高くて、中国語の文字からローマンアルファベットへの切り替えが比較的スムーズだったのはそのためだ。

では、日本はなぜローマンアルファベットに切り替えて漢字を捨てないのか? 結局のところ、『源氏物語』みたいに、ひらがなだけで長編を書くことができるんだ! そして事実、そうなりつつある・・・ゆっくりと、自然に、「写真機」のような古い単語が、「カメラ」のようなカタカナの単語に置き換わりつつある。以前は漢字が使われていた文法上のポイントも、「よろしくお願いします/よろしくおねがいします」みたいに、今では一般にひらがなで書く。

日本の政府は、韓国、中国、ベトナムと違って、言語も含めて多くのことについて手のかからないやり方を好むんだと思う。

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■回答者3(ベトナム)
日本も中国も、それぞれやっている。

中国語の単語は、部首(単語の意味を表す)と、単語の発音の仕方について、また場合によっては意味についての一般的な情報を与える字形の合成から成る。例えば「妈」(ma - 母)には部首の「女」と、音声面を構成する「马」がある。箭(jiàn - 矢)には部首の「竹」と、音声面を構成する「前」がある。このシステムは複雑で、外国人には覚えにくいが、理解すれば外国人の学習者も文字になじむのが少し速くなる。

20世紀初頭、中国にはさまざまなシステムが導入された。そのうち最もよく知られているのはピンインと注音(ボポモフォ)だ。ピンインはラテンアルファベットを、注音は中国語のあらゆる文字の発音を表す基本的な字形を使う。西欧の言語で中国語の名前を表す場合には、ピンインの影響が見て取れる(例えばBeijing)。注音は台湾の書籍で発音を示す手助けによく使われていて、これは日本の書籍で漢字の隣にひらがなを使うのと非常によく似ている(ひらがなと注音はまったく異なるものだが)。

参考:
「注音符号(ちゅういんふごう, ちゅうおんふごう、チューインフーハオ)とは、中国語の発音記号の一つ。現在は主に台湾で用いられる。先頭の四文字「ㄅㄆㄇㄈ」からボポモフォ (bopomofo) とも呼ぶ。」
注音符号 - Wikipedia

日本語は、漢字(中国語の文字)と、独自のアルファベットであるひらがなとカタカナの両方を使う。日本語の話し言葉はすべて、ひらがなとカタカナの組み合わせで表現できる ― 後者は外来語専用だ。"Green"は日本語だと漢字で「緑」、またはひらがなで「みどり」と書くことができる。"Login"、"sauce"のような英語からの借用語は、カタカナでそれぞれ「ログイン」「ソース」と書く。



■回答者4(中国、米在住)
日本は実際に、簡易化した中国語の文字をベースにアルファベットの体系(ひらがなとカタカナ)を発明した。彼らはアルファベット(完全に音声的な文字)と中国語の文字を組み合わせて使う。考えてみれば、中国の内部および周辺の他の民族、例えばチベット人、朝鮮人、モンゴル人、満州人等も、皆自前のアルファベットの書記体系を発明している。ただ古代の朝鮮と昔の日本では、中世ヨーロッパのラテン語のように中国語で書くのが公式で、自前のアルファベットは日常生活でそのほうが便利なので使われていた。

では他の民族は皆アルファベットの体系を発明したのに、なぜ中国人は発明しなかったのか? これは元からある言語を使うか他の言語を輸入するかの違いだと思う。昔の中国は朝鮮や日本よりも文明が進んでいたので、朝鮮と日本は中国語を輸入したわけだが、しかし元からある言語とは文法も語彙も全然違うので上手く行かない。そこで当然、自前の言語を発明する。意図をもって言語を発明する際には、アルファベット式にやるほうがずっと簡単だ(おそらく逆はほぼ不可能だろう)。かくして、アルファベットの体系を発明する必要を感じないのは中国人だけということになる。

昔の中国の政治的な統合というのも、確実に重要な要素だっただろう。もし中国が、今も秦朝による統一以前の多くの国の状態だったら、おそらく各地方の言語がやがて独自のアルファベットを作り上げていただろう。

(実際、中国語の中にはその地方だけで使われる音声的な書記体系を発明したものもある。例えば女書 - Wikipedia(英語)を参照。)

参考:
「女書(にょしょ、簡体字:女书、正體字:女書、漢語ピンイン:nǚshū)は、中国南部の湖南省江永県などの地域において、専ら女性により用いられた文字。絶滅の危機に瀕している。」
女書 - Wikipedia

西洋(もっと正確に言うと、ヨーロッパと西アジア)の人間が皆アルファベットを使っている理由もこれだと思う。この地域では、古代に多くのさまざまな人種が交流していた。書記体系を持たない人々が外国語を受け入れようとして、自分たち用のアルファベットを発明したいと自然と思うことも、多分よくあったんじゃないか。



■回答者5(アメリカ)
仏教によってインド語派のアルファベットが持ち込まれ、これは宗教的な目的のために残った。モンゴル人と満州人はソグド語のアルファベットを使った。これは究極的にはアラム語起源だ。これらの文字は、とくに魅力的ではないものの、よく通じた。元はパスパ文字(英語)を作り、利用を促進し、当初は小規模なサークルの外にまで広まったが、明の排外的な反動に遭って消えた。

日本は、わずか57の文字と2つの付加記号(※濁点と半濁点)しか必要としない、きわめて単純な日本語の発音に合った音節文字を発明した。これはアルファベットに比べてもそう大きな文字表ではない。西洋の書き文字で音節文字が優勢だったのは後期青銅器時代の崩壊(英語)による混乱までで、その後は子音文字が広まったが、これが本当に必要なのはセム語派だけだった。セム語派では語根が子音だけで、その間に入る母音が変化するからだ。

参考:
「前1200年のカタストロフとは地中海東部を席巻した大規模な社会変動のこと。この社会変動の後、当時、ヒッタイトのみが所有していた鉄器の生産技術が地中海東部の各地や西アジアに広がることにより青銅器時代は終焉を迎え鉄器時代が始まった。」
前1200年のカタストロフ - Wikipedia



翻訳元:Quora



日本語の中の漢字率はむしろ上がっている印象があります。



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